妊娠中に不動産を相続した場合の胎児名義の登記の可否

1 シチュエーション

不動産(土地・建物)を親から相続した旦那様の法務太郎がお亡くなりに。相続人は1年前に結婚したばかりの妊娠中の奥様の法務花子。これから相続登記を申請するのですが、このような場合、奥様のみならず、胎児名義でも相続登記の申請をすることができるのか。なお、旦那様のご両親、ご祖父様、ご祖母様は他界されており、兄弟姉妹もおりません。

2 根拠条文

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす(民法886条1項)※。

※「既に生まれたものとみなす」との法文の意味(『民法(9)相続[第3版]40頁 有斐閣双書』)

➀ 停止条件説

胎児の間は相続能力はなく、出生に生じた権利能力が、相続に関する限り相続開始の時まで遡るという考え方。すなわち、生まれることを停止条件として相続能力が認められるという考え方。

➁ 解除条件説

「胎児自体に相続能力を認めるが、死んで生まれた時は遡及的にその効力を失わしめる」ことにする考え方

3 登記実務は解除条件説を採り、胎児名義を肯定

判例・通説は停止条件説をとっておりますが、登記実務は解除条件説を採っております。

すなわち、胎児名義での法定相続分による共同相続名義(上の例でいくと、奥様法務花子と胎児の共同相続名義)を認めております(明治31年10月19日民刑1406号、昭和29年6月15日民甲1188号)

胎児の名義はどうなるのでしょうか?こちらは、登記実務上、型がありまして、上の例でいくと「亡法務太郎妻法務花子胎児」となります。

つまり、➀「亡」の後が、「お亡くなりになられた方のお名前」、➁その次に「妻」のお名前、➂その後に「胎児」という順番に決まっております。

かなりベタな名前ですが、登記実務上、決まっているので致し方ありません(平成21年2月20日法務省民二第500号・不動産登記記録例191参照)。

なお、その後、胎児が無事出生した場合、上記の胎児名義をそのままにしておく訳にはいかないので、いわゆる「名変登記」、所有権登記名義人住所、氏名変更登記を申請しなければなりません(平成21年2月20日法務省民二第500号・不動産登記記録例602)。

一方、胎児名義を含めて相続登記申請後、死産した場合は、胎児を除いた他の共同相続人の名義とする所有権更正登記(上記の例でいうと奥様の単有名義)を申請します(平成21年2月20日法務省民二第500号・不動産登記記録例240)。

4 実際の胎児及び奥様名義の相続登記の申請方法

胎児が自ら相続登記を申請することはできないので、かかる場合には、奥様が胎児に代わって登記を申請することになります(未成年者の法定代理の規定が胎児にも類推適用されます)。

もっとも、胎児の出生前においては、死産する可能性もあり相続関係が未確定の状態にあるため、胎児のために遺産分割その他の処分をすることはできません(昭和29年6月15日民甲1188号参照)。

なお、胎児出生後に奥様とその子の間で遺産分割協議をする場合は、生まれた子のために特別代理人を選任する必要があります。奥様は2つの立場が利益相反するからです(子の監護をして子の利益を図る奥様の立場と自らが相続人となって遺産分割協議によって利益を得るかもしれない立場の2つの利益が形式的にも相反するということ)。

この場合の相続登記は、通常の相続登記の書類(戸籍、除籍、改製原戸籍、住民票の除票又は戸籍の附票、名義人となる人の住民票等)のほかに、奥様と特別代理人の実印を押印した遺産分割協議書と印鑑証明書(印鑑証明書は作成後3ヶ月以内である必要はありません。)、家庭裁判所の特別代理人の選任審判書が必要になります。

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